2025年5月4日(日本時間5月5日)に井上尚弥選手のーパーバンタム級の4団体統一王座防衛戦として、ラモン・カルデナスとの試合がラスベガスで行われました。
井上チャンプ自身4年ぶりのラスベガスでの試合ということで注目を集めました。この試合で4団体王者としての井上選手の強さを再び証明するものとなり、結果からみると8回45秒でTKO勝ちという圧勝で終わりました。
2回に訪れた井上尚哉の衝撃ダウン
2回には思わず「うえぇぇぇ!!」と声がでるほど驚きのダウンがありましたが、試合は初回から井上選手はいつも通りの鋭く強力なジャブと、攻守のバランスに優れたフットワークを駆使し、圧倒的なボクシング力を魅せカルデナスを翻弄しました。
一方カルデナス選手もハングリーさと勇気を武器に戦いを挑みましたが、終始ペースを握る井上選手に対し、防戦一方となる場面が目立ちました。とりわけ井上チャンプの精緻なディフェンスとタイミングを取った攻撃が際立ち、リング上ではボクサーとしての差が明白でした。
8回に仕掛けられた井上選手の猛攻は特筆すべきポイントです。このタイミングでの攻撃は、彼が対戦相手の動きを完全に見切ったた結果であり、ボディと顔面を的確に狙った連打が決定打となりました。
カルデナス選手もこの局面で耐えることができず、たまらずレフェリーが試合をストップしました。カルデナス本人はまだやれるとアピールしましたが、亀になって反撃をしない時点で止められてもおかしくないです。
この判定に関しても観衆や専門家からはなんの疑問もありません。当然の結果と言えます。
世界戦通算KO記録の世界新記録樹立
今回の勝利によって井上選手はこれまでの30戦全勝、うち27勝がKO勝利という驚異的な記録を更新しました。
この記録はかつて「褐色の爆撃機」と呼ばれた伝説的な元世界ヘビー級王者ジョー・ルイス(米国)が1948年6月にマークした世界戦通算KO記録(22KO)を抜き、世界新記録を樹立しました。
この記録が数字よりすごいのが、井上チャンプは軽量級ということです。しかも下から2番目の階級のライトフライ級から始まっています。KO率が少ない中量級以下で積み上げた記録です。
また、この試合ではラスベガスというボクシングの聖地で行われたため、世界的な注目を集めることとなり、日本国内外問わず、彼の人気と評価がさらなる高まりを見せるきっかけにもなったと言えます。
試合後、井上尚弥選手は「今回の試合が更なる飛躍への一歩」と語り、今後のプランにも意欲を示しました。この発言からも次なる挑戦に向けた強い気概が伝わり、彼のキャリアはさらに輝きを増していくことが予想されます。
井上尚弥選手とラモン・カルデナス選手の試合は、井上選手の圧倒的な実力を再確認する場となりました。彼のパフォーマンスは「モンスター」と称されるにふさわしい内容であり、ファンや専門家の期待を大きく上回るものでした。
この試合の経験をもとに、井上選手が次にどのような挑戦を見せてくれるのか、大いに期待が高まります。試合のポイントは井上チャンプのダウンとレフェリーストップ云々の話になると思います。はじめに衝撃のダウンに関してですが、今回人生2度目のダウンということで騒がれました。で、ダウンの原因は衰えという意見が多いです。
井上尚弥は衰えたからダウンしたのか?
でも彼はまだ32歳です。例えばRING誌のパウンドフォーパンウンド1位のヘビー級統一王者のウシクは38歳、3位のクロフォードは37歳、ビボルは34歳、5位のベデルビエフにいたっては40歳です。カネロは34歳です。みんな井上チャンプより年上です。
バリバリの現役でP4Pベスト10以内の怪物たちです。その中でも年齢は下から4番目なんです。
こんな強者たちの中で32歳は若いほうです。衰えると言うには早すぎます。と言うか衰えるどころか逆に脂がのりっ切っていて、今が全盛時といってもいぐらいの年齢です。
ボクシングで一番権威のあるRING誌による最新のパウンドフォーパウンドランキングは以下のとおりです。
Ring誌パウンドフォーパウンドランキング(2025年5月7日更新分)
1位 オレクサンドル・ウシク(ウクライナ)38歳
2位 井上尚弥(日本)32歳
3位 テレンス・クロフォード(米国)37歳
4位 ドミトリー・ビボル(ロシア)34歳
5位 アルツール・ベテルビエフ(ロシア)40歳
6位 ジェシー・ロドリゲス(米国)25歳
7位 中谷潤人(日本)27歳
8位 サウル・アルバレス(メキシコ)34歳
9位 寺地拳四朗(日本)33歳
10位 デビッド・ベナビデス(米国)28歳
プロならKOを狙わなきゃ
古い格闘技ファンなら知っている「判定はダメだよ!KOじゃなきゃ!」とリング上で叫んだのは、格闘技団体「PRIDE」の軽量級に現れた五味隆則です。彼がPRIDEの軽量級を盛り上げました。
日本人は「ボクシングならKO」「柔道なら1本」というような明確な勝利を期待します。
海外の選手のほうが獰猛でKOを狙っていると思いがちですが、見た目がいかつく私生活で何度も逮捕されているWBAライト級王者「タンクデービス」ですら、カウンター狙いで極力危険を冒さない戦い方をします。
ダウンの原因は?
ダウンの原因を普通に考えれば井上チャンプのKOを狙う姿勢にあります。KOを狙うというこは相手との距離が近くなります。お互いの距離近くなれば相手のパンチも届きます。これがパンチをもらう原因です。
私はボクシングを少しかじっていますので理解できますが、KOを狙うには相手の近くで足腰を安定させてパンチを降り抜くことが必要です。これを踏まえて井上チャンプは軽量級なのになぜKOが多いかのか?
その理由が相手にパンチが届く距離で下半身を安定させバコーンと打てるからです。距離を取ってよけることを前提にパンチを打つような選手はKOできません。KO率が低い井上弟や天心にKOが少ないのはそれが理由です。
KOを狙うには勇気をもって踏み込まないといけません。
マニーパッキャオの踏み込む勇気
2025年9月にウェルター級の世界戦を行う世界6階級制覇王者でアジアの英雄「マニーパッキャオ」。彼の復帰についての話は別にして、そのパッキャオのトレーナーだった「フレディーローチ」はこう言っています。パッキャオはなぜ階級を超えて活躍できたのか、それは彼が対戦相手に「踏み込む勇気」があるからだと語っています。
パッキャオが偉業を成し遂げた理由の一つには、自分より重い階級の相手に対して踏み込んでいって倒してきたからです。踏み込みとあの縦横無尽に動き回るフットワークがあってこその「6階級制覇」です。飛び級をしていますので実質は9階級です。
なんせフライ級からウェルター級までチャンピオンになっているんです。ありえない偉業です。偉業というよりは「狂気の沙汰」でしかないです。フライ級始まりだった人がウェルター級の懐に飛び込むって・・・。怖すぎです。
井上チャンプの戦い方は相手との距離が近くて危険との隣り合わせです。衰えというよりは攻めるが故のダウンということですね。本人はアウトボクシングをしてディフェンシブなスタイルでも戦えますが、面白い試合をするためにあえてアグレッシブな試合をしているというわけです。
ディフェンス重視で「タッチボクシング」と揶揄されて、始めから判定勝利狙いで逃げ回るイメージの「フロイドメイウェザー」にしてもです。スーパーフェザー級時代はKOを量産しています。ですが、ライト級からはガクンとKOが減ります。
メイウェザーは自身のディフェンシブな戦い方をこう述べています。
「(ボクシングのダメージで病を患ったとされている)叔父のロジャーやモハメド・アリを見たときに、人々はボクシングは消耗のスポーツだと気付かなければならない。私がディフェンス重視の選手だったことにとても感謝をしている。身体的にも精神的にも能力の衰えが無く、頭も冴えている、自分自身が誰かもわかる」と語っています。
この言い分はわかります。頭を殴られれば脳にダメージを受けますし、網膜剥離などの眼の病気にもなります。ということでいちファンとしては危険を冒さず慎重に戦ってほしいのが本音です。やっぱり無敗で引退してほしいです。
井上チャンプの次戦は9月にWBA同級暫定王者ムロジョン・アフマダリエフ(ウズベキスタン)戦です。また面白い試合を期待しましょう。